こんなに長くかかるとは思わなかったよ!
先日の月刊すたの通信12月号でもさらっと触れましたが、投稿していた論文が無事採択されましたー!僕の場合、英語の論文が採択されないと卒業できないという由々しき事態に陥ってしまうので、正直ヒヤヒヤでしたよ。何でもない風を装ってたけどさ!
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英語論文の採択とPhD
繰り返しになりますが、僕の大学院の場合、博士課程を卒業してPhDを取得するためには英語の論文(Article)を通す必要があります。逆に言ってしまえば、論文を1つだけ通しさえすれば、卒業とPhDが確定するのです。
ここで言う「論文」とは、もちろん英語です。別に英語で文章を書くこと自体は全く苦ではないけれど、論文という『型』にはめて書くのが大変でした。初めての経験だったというのもありますが。
こんな風にブログを書いているときは、思いつくままにキーボードを叩けばいいので、『型』にはめて書くということはあまり意識していません。もちろん、「ちゃんと伝わる文章になっているか」とか、「言ってることが支離滅裂じゃないか」とかは気を配ってますよ。でも、基本的には思いついた言葉を思いついた順序でアウトプットしているだけです。
一方論文では、僕の分野では Introduction → Method → Result → Discussion → Conclusion という流れで書くのが普通。また、各セクションの中にも、文章の流れを軸にした『セオリー』があります。一文ずつ前後との関係を考えながら書かないといけないので、もう大変です。
だからこうやって自由に書けるブログが息抜きになってる気がします。だったらもっと更新頻度上げろよって話ですよね!わかってるよ!!
話を戻します。
僕の場合は、英語の論文が採択されて、それを大学院に提出し、かつ定められた単位と年限を修めていれば、PhDを取得することができます。大変なのは、これらに加えて「日本語の博士論文」を書かないといけない方々。せっかく英語で書いたものを日本語に訳すのって面倒じゃない?(※個人の感想です)
だから日本の教育システムは!…とか言うつもりは全くありません。そういうところもあるよ!っていう紹介です。もし博士課程に進もうと思っている人がいれば、進学先はそういう視点で選んでみてもいいかもしれませんね。
論文が採択されるまで
まず最初に、自分の研究分野に合うJournal(雑誌)を選んで投稿します。
投稿した後は、投稿した雑誌のEditor-in-Chief(編集長)が価値があると認めれば、査読に回ります。編集長に認めてもらえなければ、その場でReject(不採択)されます。
査読では、大体3人くらいのReviewer(査読者)によって、その雑誌に掲載する価値があるか判断されます。査読者は絶対的な存在なのです。論文を通すには従わなければなりません。でも、どの査読者に当たるかは運次第。しかも匿名なので誰に当たったかは伏せられています。
この時点(1回目の査読)で査読者全員がOKを出せば、採択されます。でも1回目で採択されるのはかなりのレアケース。大抵はいくつか指摘が入るし、査読者が価値を認めなければ不採択となります。
もし改善点や追加実験が必要だと査読者に指摘されれば、従わざるを得ません。言い回しを見直したり、追加実験をしたり、要求されたことを論文に追加して、もう一度提出します。
その後もう一度査読(2回目)が入って、努力が認めてもらえれば採択されます。認めてもらえなければもう一度改訂作業が必要です。また、ここで不採択になるのは「可能性としてはゼロではない」という程度かな。(※個人の感想です)
はじめての論文
今回は長かった。最初の投稿から採択されるまで7ヶ月かかりました。相当長い部類に入ると思うので、あまり参考にならないかもしれませんが、時系列順に振り返ってみます。
まず前提として、僕は「Drug Delivery System」という分野の研究をしています。日本語にすると「薬物送達システム」。ほら、一気に頭良さそうな人に見えてきたでしょ!
具体的には、体内の狙った場所に薬を送り込むような研究です。
例えば普通の飲み薬だと、小腸から吸収されて、肝臓を経由して、全身に回る。注射だったらいきなり血中に入るので、それが全身に回ります。でも全身に回らない方がいい薬もあるんですよ。例えば抗がん剤とか。がんのある場所だけに狙い撃ちできれば、副作用が少なくていいよね。
ざっくり言うとこんな分野です。なので投稿するのは、薬学系でこのようなトピックを扱っている雑誌ということになります。
一通り書き上げて、プロに校正してもらって、まず最初は「International Journal of Pharmaceutics」に投稿しました。これが2017年5月末の話。
→ やっと投稿できたので、論文を書きながら思ったことをつらつらと。
その後1回目の査読に入りました。査読にかかる時間は、雑誌にもよりますが、大体1か月前後が多いようです。
1か月ほどで結果が返ってきて、なんと不採択でした。正直言って動揺したけど、改善点を詳しく書いてくれている査読者がいて嬉しかったのを覚えています。
すぐさま別の雑誌に投稿するための見直し作業に入ります。使うデータは変えずそのままにしましたが、文章の視点を少し変えてというか、主張するポイントを絞ってみることに。そこに査読者からのフィードバックも加味します。この作業が完了したのが7月下旬。
次は「Journal of Drug Targeting」に投稿することになりました。見直し作業の中で、プロに校正してもらった文章は少なくなってしまいましたが、難しい表現は使ってなかったので大丈夫だろうと思って、そのまま投稿しました。
その後は問題なく1回目の査読に入ったのですが、その査読が長かった。先ほど1が月前後が多いと書きましたが、このときは2か月かかりました。結果は、査読者からの指摘事項がいくつかありましたが、不採択ではなかった。ひとまず安心したのを覚えています。これが9月下旬。
幸運なことに追加実験は必要なかったので、言い回しを変えたり追加のデータを載せたりして、10月下旬に再投稿しました。
2回目の査読ですが、これも2か月かかりました。長いよ!
結果が出たのは12月半ば。ここで無事採択されました。それと同時に僕の卒業とPhDが確定しました。よかったよかった。
とは言ってもこれで終わりではなかった。必要事項に同意したりとか、原稿をもとに出版社が作ったレイアウトをチェックしたりとか、いろいろやりました。もちろんやりとりは全部英語です。
で、オンラインで読めるようになったのが12月27日。最初の投稿は春だったのに、夏と秋が過ぎ去って冬になってしまいました。でも何とか年内に決めることができて良かったです。
ブログと論文の互恵関係
論文もブログも、どちらも「文章」です。確かに言語は違うけれど、頭の中にあるモヤモヤっとした「伝えたいこと」をうまく言語化するという作業には変わりありません。だからきっと求められているのは同じような能力なんですよ。
もし普段文章を書くという習慣の無い人が、はい文章書いて!って言われても、なかなか書けないんじゃないかなぁ。ましてや、ブログ以上に気を配らなければならない論文の文章なんて、何ヶ月もかかってしまうことでしょう。
このような意味で、「文章を書くことが苦でなくなった」というのは、明らかにブログのおかげだと思っています。この記事だって一気に書き上げてきましたが、ここまでで3200字あまりです。別に苦しくなかったよ。
また、逆に「論文を書く」ということがブログにも良い影響を与えていると思っています。例えば、論文では始めの方で「その研究の位置づけ」をはっきり示さなければなりません。「何のためにやるのか」「明らかになってないのは何なのか」「それが解明されたらどう良いのか」などを説明する必要があるのです。
ブログのレビュー記事だってこれと同じだと思っていて、レビューに入る前に「なぜその商品を買ったのか」「なぜ他の商品ではなくそれなのか」といった情報を書いた方がいい。
ありがたいことに、当ブログもいろいろな人が読んでくださっていると思うので、必要な情報はさまざまです。写真だけを見たい人ももちろんいると思いますが、購入に至るまでの背景的な情報の方が価値がある場合だってあるはずです。なので、ブログでも論文的なアプローチで記事を書いてみると、幅広い人のココロに刺さる記事になる。
要するに、ライトに書けるブログで文章力を鍛えて論文に還元する。同時に、論文で考察力を鍛えてブログに還元する。このような互恵関係が生まれているんじゃないかなーと最近では思っているのです。
まとめ
一応、博士課程の卒業とPhDの取得は確定させることができたので、残りの期間は割と自由に研究ができそうですね。そんなやりたい放題できるというわけではないけれど、少なくとも精神的な負担は軽くなったように感じています。
また、最近ではこのブログもいろいろな方に認知してもらっているようなので、あまり放置しないようにしたいと思っています。でもゆるーいテイストは変えずにいよう。ここで論文のような硬い表現をしても引かれると思うし、僕も疲れるので。
今はこんなことを思っています。たまにはこんな記事も思考の整理になっていいですねー。では!