検証は難しいから考えてみよう。
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高速道路を長時間走っていると、だんだん眠くなってくる。走ったことある人なら誰でも経験のある事象だと思うんだけど、よくある理由としては、寝不足、運転による疲労、景色の単調さなどがよく言われます。
なぜこんなことを考えたかと言うと、先日、人間2人と犬1匹で軽井沢に行ったんですよ。夜にあまり寝れていなかったので、ベースラインとして眠いのはありました。
でも、運転していると、そんなことを超越した「猛烈な眠気」が突如として襲ってくるんです。寝不足以上の眠気というか、寝不足かどうか関係なく襲ってくる眠気というか。
考えてみると、このような事象って、普段の生活ではなかなか味わうことがありません。でも、高速道路を運転しているときに限って襲ってくる。それはなぜだろう?
ひとつ思い当たったのが、室内で換気せずに二酸化炭素(CO2)濃度が上がってくると眠くなるという事象。これって、自宅やオフィスだとよく言われていて、CO2センサーも売られているほどです。そしてこれは、密閉された車内でも発生する可能性は十分に高いのではないだろうか?
もちろん、猛烈な眠気に襲われたときはPAに入れて少しでも仮眠を取るのが最適です。しかし、しばらく運転しないとPAにすら辿り着くことができないわけで、運転しながら解消できる手段が見つかれば、それに越したことはありません。
CO2と眠気の関係
よく知られているとおり、人間は呼吸によって酸素(O2)を吸い込み、CO2を吐き出しています。密閉空間に人が多ければ多いほど、CO2濃度は高くなりやすい。実際、家やオフィスで換気が不十分だと、頭がボーッとしたり、集中力が落ちたりすることが知られています。
たとえば、室内のCO2濃度が1,000ppmを超えると、眠気や注意力の低下が見られ、2,000ppmを超えると明確にパフォーマンスが落ちるという研究もあります。具体的にはここには載せませんが、興味があれば調べてみてください。
そして、車という空間は、一見換気されているようで、実は思っているほど空気の入れ替えがされていないかもしれない。だから高速道路をずっと運転していると眠くなってくる。このような仮説を提唱したい。
外気導入は万能じゃない
車に乗っているときは、たいていエアコンが入っています。
そのエアコンには「外気導入」と「内気循環」のモードがあります。文字どおりで、外の空気を取り込みながらエアコンを効かせるモードと、外の空気の入れ換えを遮断して車内の空気を循環させるモード。
内気循環は冷暖房効率がいい反面、空気がこもりやすくなります。外気導入なら新しい空気が入ってくる。最近の車は、基本的に外気導入モードで運転し、外の空気が汚れている場合に自動で内気循環モードに切り替わります。
外気導入モードで外の空気を取り入れている状態においても、果たして人間が吐き出したCO2を相殺できるほどの換気が行われているのだろうか?——これがこの記事の問いの本質です。
調べてみると、外気導入といっても100%外の空気が入ってくるわけではなく、車種によっては取り込み量が少なかったり、走行スピードによって流入効率が変わったりするようです。
さらに今回は、人間2人に加えて犬1匹も同乗していると。これだけの生き物が車内にいれば、たとえ外気導入モードにしていても、車内のCO2濃度は上がっていくのではないだろうか。
どうやって検証しよう?
これを検証するために、CO2センサーを車内に導入してみようかなと思ったのですが、果たしてそれで十分な検証を果たせるのだろうか、というところで立ち止まってしまいました。
いやね、ガジェットを扱っているライフスタイルブログとしては、自分でCO2センサーを買って検証するという発想になるんだけど、個人でできる検証じゃないような気がしていて。
眠気というのは極めて主観的な感覚であり、しかも個人差が大きい。自分が「眠い」と感じたタイミングが、CO2濃度によるものなのか、それとも昼食後の血糖値の問題なのか、あるいは単なる疲労なのか。このようなさまざまな要因を切り分けたいけれど、そもそも実験条件を揃えることが難しい。
さらに言えば、同一人物であっても体調、睡眠時間、気温、心理状態によって、同濃度のCO2でも感じ方が変わるかもしれない。
このあたりの変動因子を含めて、車内におけるCO2濃度単独の影響を洗い出し、さらにブログで伝えらえるほど一般化するためには、下手すると数百・数千のオーダーの被験者が必要になる気がしました。僕は統計の専門家じゃないので、被験者数については明るくないけれども。
仮説をめぐる7つのポイント
とはいえ、思考を深めるうえで考慮すべき論点はいくつかあります。ここでは、自分なりに整理してみた7つの観点を挙げてみましょうか。それをもって思考実験を行って、高速道路の運転中に眠くなる事象について、造詣を深めてみたいと思います。
1. CO2濃度が上がると本当に眠くなるのか?
これはある程度エビデンスがあります。
室内環境に関する研究では、CO2濃度が1,000ppmを超えると眠気や注意力の低下が始まり、2,000ppmを超えると認知機能や判断力が低下するという報告1 2もあります。これって酸素が足りなくなるからではなく、あくまでCO2が脳の働きに直接影響を与えているからだそうです。
とはいえ、実際に「眠くなった理由がCO2だった」と断言するのは難しいです。あくまでCO2は「眠気を引き起こす可能性のある要因のひとつ」であって、それ単独で因果を結びつけるには慎重さが必要だと思います。
2. 外気導入にしていても換気が追いつかないことはあるのか?
「外気導入だから大丈夫」と思っていても、実は換気が不十分という可能性もあります。外気導入といっても、車種やモードによっては完全に外気100%になるわけではありません。また、走行スピードや風量設定、エアコンのON/OFF状態などによっても外気の流入量は変わってくるはずです。
たとえば、低速走行時や渋滞時、あるいはファンの風量を弱めているときなどは、外気導入でも実質的な換気能力が低下するかもしれません。特に長時間走行の場合は、思っているよりも空気がこもっている可能背もある。
3. 「眠くなる」という主観を、定量的に評価できるのか?
最大の難所はここかもしれません。「眠くなる」という感覚は、極めて主観的で、かつ動物的な反応です。同じCO2濃度でも、そのときの体調や時間帯、直前に何を食べたかなどによって感じ方がまったく変わってしまう。
つまり、「今日はCO2が1,300ppmだったから眠くなった」と言っても、それが本当にCO2のせいだったのかを特定するのは不可能に近い。こうなると、個人レベルでは観察はできても、もはや実証は難しい、というのが正直なところ。
4. CO2以外の空気の質の影響は?
空気がこもるといっても、悪さをしているのはCO2だけとは限りません。たとえば湿度が高くなることで不快感が増したり、プラスチックや内装材から揮発する微量な有機化合物(VOC)が頭痛やだるさを引き起こしたりすることもあります。微々たる影響かもしれないけど。
要するに「眠くなる」という感覚の背後には、CO2濃度だけでなく、さまざまな空気の質の変化が影響している可能性がある。だからこそ、CO2だけを取り出して語るには限界があるんだろうな、とも思います。
5. 座位姿勢と血流の関係はどうなのか?
運転中は同じ姿勢でずっと座っているので、どうしても血流が滞ります。特に下半身の循環が落ちると、全身の代謝も低下し、なんとなくぼーっとしてくることもあるらしい。
さらに、ハンドルを握って肩がすぼんでいるので、呼吸が浅くなって酸素の取り込み量自体が少なくなっていることもあります。これらも眠気を誘発する要因のひとつと考えられます。
6. 呼吸量によってCO2の増え方は変わるのか?
当たり前といえば当たり前なのですが、車内にいる人数が多いほどCO2の濃度は上がりやすくなります。しかも、ただの人数ではなく「誰がどれくらい呼吸しているか」によっても差が出ます。
たとえば、会話が多ければ呼気の量も増えるだろうし、犬のように浅く速い呼吸をする生き物が同乗していれば、相対的にCO2排出量は高くなるかもしれません。人間2人+犬1匹という条件は、意外とCO2的には「過密」なのかも?
7. 車種や空調性能によって状況はどう変わるのか?
最後に、車そのものの設計にも目を向けたい。
たとえば、コンパクトカーとSUVでは車内空間の広さが違うし、空気の流れ方も異なります。さらに、エアコンの換気性能やフィルターの通気性、風の流れ方も車種によってまったく違う。
つまり、「車内におけるCO2濃度の眠気への影響」を広く一般化するということ自体が、車種の違いを乗り越えられないという観点で不可能に近いわけで、これもまた因果関係の特定を難しくしてしまうかもしれない。
まとめ
眠気という極めて主観的な現象に対して、CO2濃度という客観的な変数を持ち込んでみたらどうなるか?──そんな思考実験でした。
当然ながら科学的には何の根拠もなく、ただただ個人の感想を書き連ねたに過ぎません。でも、自分の体験に対して疑問を持ち、仮説を立て、それに対していろんな角度から光を当ててみるという営み自体に、少しだけ意味があるんじゃないかと思っています。
次に高速道路を走るとき、もし眠気を感じたら、窓を少し開けて空気を入れ替えてみるとか。たったそれだけのことでも、もしかしたら眠気が軽減されるかもしれません。
参考文献
- Satish, U., et al. (2012). Is CO₂ an indoor pollutant? Direct effects of low-to-moderate CO₂ concentrations on human decision-making performance. Environ Health Perspect, 120(12), 1671–1677. https://doi.org/10.1289/ehp.1104789 ↩︎
- Allen, J. G., et al. (2016). Associations of cognitive function scores with carbon dioxide, ventilation, and volatile organic compound exposures in office workers: A controlled exposure study of green and conventional office environments. Environ Health Perspect, 124(6), 805–812. https://doi.org/10.1289/ehp.1510037 ↩︎