アメリカの薬局②|コミュニティファーマシーとドラッグストア

昨日に引き続き、アメリカの薬局特集の2回目です。今回は対照的な「コミュニティファーマシー」と「ドラッグストア」を取り上げます。

付加価値として「きめ細やかなサービス」を提供するコミュニティファーマシーと、割と流れ作業なドラッグストア。アメリカ人も好みが分かれるようです。

さらに、もうひとつの対立軸として、日本とアメリカの薬局のちがいという視点でも見てみたいと思っています。


前回は、薬局内で薬を製造する「コンパウンド・ファーマシー」を紹介しました。

アメリカの薬局①|薬をつくる「コンパウンド・ファーマシー」 – starnote*
日本と同じところと、ちがうところを、探しに行く。 日本で「薬局」というと、病院に行った帰りに処方せんを持って寄る薬局と、マツキヨのようなドラッグストア、この2種類があります。それはアメリカでも同じです。 この記事で取り上げるのは前者。日本で言うところの「調剤薬局」です。医師からの処方せんに基づいて調剤し、患者に薬を渡す、というのは日本と同じ。 ただ、アメリカは日本より薬剤師に認められている業務の幅が広かった。 11月上旬にアメリカに行ってきました。その目的は「日本とアメリカの薬剤師のちがいを体感する」こと。前回はアメリカにおける薬学教育について記事を出しました。 このプログラムの一環で、2か所の特徴的な地域薬局と、アメリカ全域に展開するドラッグストアを訪問してきました。まずはそのひとつについて詳しく紹介します。 MENUAL COMPOUNDING PHARMACY 僕らが滞在していたニューメキシコ州・アルバカーキにある「MENUAL COMPOUNDING PHARMACY」。 この薬局では、原薬の粉末からオリジナルの薬を作っています。日本では見かけない——というか日本では許可されていない——タイプの薬局です。 薬局で薬をつくる、とは? 日本でも、散剤(さんざい:粉薬のこと)や軟膏剤を混ぜ合わせることはできます。以下のように、医師からの処方せんに基づいて、混ぜ合わせて患者に渡すようなことです。青いフタの軟膏入れは見たことがあると思います。 アメリカはさらに進んでいて——進んでいるという表現がふさわしいはわかりませんが——原薬を基剤に練り込んで、薬局でゲル剤を作ることができるのです。 日本では製薬メーカーの工場でしかできないような工程を薬局で行うことができる。つまり、患者に合わせたオーダーメイドの薬を作ることができます。 日本の薬局でできるのは「散剤どうしの混合」「軟膏やクリーム剤の混合」「内用液剤の混合」というように、同じ種類の薬を混ぜ合わせることだけです。原薬の粉末から別の種類の薬を作り出すことはできない。 たとえば軟膏剤・ゲル剤にフォーカスしてみましょう。

いくら薬局で薬を製造することが認められているとはいえ、すべての薬局でこのようなことを行っているわけではありません。アメリカにも、日本と同じような調剤薬局やドラッグストアが存在します。

今回は、このような〈普通の〉薬局を紹介。


DURAN’S PHARMACY

きめ細かなサービスに定評のあるコミュニティファーマシー「DURAN’S PHARMACY」。日本でいうところの「調剤薬局」です。

患者との対話を重視し、従業員全員が患者の顔と名前を覚えているので、その人に合ったサービスを提供することができるそうです。

たとえば、アメリカの処方せんは病院から薬局へオンラインで送られているので、患者が薬局を訪れる前から薬の準備ができます。患者の顔と名前を覚えていれば、薬局を訪れた直後に薬が出てくるし、健康状態の相談もしやすくなるし、いいことばかりです。

また、このDURAN’S PHARMACYでは、異なる医療機関から処方された薬の日数をそろえ、患者が月に1回だけ薬局を訪れればいいようにしているそうです。

このように、普段から過剰なサービスに慣らされている日本人から見ても、きめ細やかだと感じるサービスが提供されている。だからアメリカ基準だったら超親切な薬局ということになりますね。

引用:Duran Central Pharmacy
引用:Duran Central Pharmacy

コミュニティファーマシーにおける薬剤師

日本の調剤薬局では、通常の調剤業務に加えて、高齢者向けの「在宅医療」や「一包化」に取り組んでいる薬局も多くあります。アメリカでも、このような取り組みが行われているのでしょうか。

日本における「在宅医療」とは、家から出歩くことが困難になった患者(主に高齢者)を対象として、医師・看護師・薬剤師などが患者宅を訪問し、自宅で医療を提供するというものです。結論から言うと、アメリカではこのような制度はメジャーではありません。

しかしDURAN’S PHARMACYの場合は、配達サービスを行っています。ドライバーを雇って患者宅に薬を届けてもらい、服薬指導は薬剤師が電話で行うというようなものです。日本のように薬剤師が直接患者宅を訪問することはありません。

在宅医療に関しては、高齢化の進んでいる日本の方が行き届いたサービスを提供しているなーという印象でした。

また、同じく高齢者向けである「一包化」。同じタイミングで飲む複数の薬をひとまとめして患者に渡すサービスですが、これはアメリカでも提供されています。

ちがうのは入れ物くらいかな。日本は散剤(粉薬)と同じ袋に入れることが多いですが、アメリカの場合は「Dispill」という大きなPTPシートのようなものに入れます。

Dispill® Medication Packaging System

また、日本でも患者に渡した薬を「薬歴」という形で管理していますが、アメリカでも同じようなものがあるそうです。

詳しくは聞けませんでしたが「ICD10」というコードで病名を管理し、別の薬局からでも参照できるようになっているとのこと。薬局間の共有を前提としていない日本のクローズドなシステムとは大違いです。


さて、そんなDURAN’S PHARMACYですが、店内はこのような構造になっています。

左から

  • レストラン
  • OTC薬(かぜ薬など、処方せんのいらない市販薬)・日用品・おみやげなど
  • 調剤室

となっています。日本人から見て違和感を覚えるのは、やはり薬局の中にレストランがあるということでしょう。

薬局の中にレストラン!?

引用:Duran Central Pharmacy
引用:Duran Central Pharmacy

昔々、アメリカの薬局はソーダやアイスクリームを売っていました。その形態が徐々に変化していって、今では薬局内にレストランを併設していることも少なくないそうです。だからこの光景はアメリカでは割とメジャー。

特に大きな壁もなくひとつの空間なので、レストランから放たれるいい匂いが調剤室の方まで漂ってきます。調剤室の見た目は日本と大差ないのに、匂いが全然違うもんだから、僕の頭はプチパニックを引き起こしていました。

残念ながらスケジュールの都合上、このレストランで食事はしなかったけれど、絶えずお客さんがやってくる大人気のレストランでした。


アメリカの薬剤師は予防接種を打てる

なんといっても、アメリカの薬剤師の大きな特徴は「予防接種を打っていい」ということでしょう。僕らが訪問したときもインフルエンザの予防接種「FLU SHOT」が行われていました。ちなみに価格は35ドル。日本とあまり変わらないかな。

さらに、薬剤師だけでなくAPPE中の学生(ニューメキシコ大学薬学部では4年次の学生)も打てるということでした。どういう決まりになっているかはわかりませんが、薬剤師と同じ権限があるほど深い実習をやっているということでしょう。

アメリカの薬学教育制度についてはこちらの記事をご覧ください。

日本とアメリカの薬学教育のちがいを学んできた。 – starnote*
学んできた者の使命は「発信すること」だと思うのです。 先日1週間ほどアメリカに行ってきたのは何回か書いているとおりですが、学んできたことや感じたことを僕の中だけ留めておいても何もいいことがありません。 当ブログの読者には薬学関係者がたくさんいると思うので、有益そうな知見を余すことなく発信できればいいなーと思っています。 1回目は「日本とアメリカの薬学教育のちがい」について。日本との差が大きく、取り入れてもいいんじゃないかと思える部分が数多くありました。 The University of New Mexico (UNM) 僕らがお邪魔してきたのは、アメリカ南部のニューメキシコ州アルバカーキにある「ニューメキシコ大学(The University of New Mexico: UNM)」。州立大学です。 僕の大学出身の先生がニューメキシコ大学で講師をしてらっしゃるというコネがあり、今回の訪問が実現しました。本当にお世話になりました。 日本とアメリカの教育制度 日本の教育制度は中央(文部科学省)が一括で決めていることが多いですが、アメリカは州の力が強い国。教育制度という面にもその影響が大きく現れていて、カリキュラムは州ごとに異なるそうです。 一例を以下に示します。 日本の場合 日本では全国共通の教育制度となっています。薬学部の場合、薬剤師免許を取得できるコース(薬学科)は6年制課程でなければなりません。その内容も「薬学教育モデルコアカリキュラム」というものに基づいています。 高校卒業後(浪人生の期間がある人もいるにせよ)、そのまま大学の薬学部薬学科に入学して6年間のカリキュラムをこなすと、薬剤師国家試験の受験資格を得られます。 大学では、基礎的な内容から徐々に高度な内容を積み重ねていくようなカリキュラムになっています。初年次には薬学とは遠い内容である教養教育も含まれます。 また、卒業前(学士取得前)でも、「卒業見込み」であれば国家試験を受験できるのが日本の制度です。試験は毎年2月末に1回だけ実施されます。次回の第104回薬剤師国家試験は2019年2月23〜24日。 アメリカ(UNM)の場合 アメリカは州ごとの裁量が大きいので教育制度も異なることがあります。ここでの内容はニューメキシコ州での話。

心電図モニタリング

また、ポータブルなデバイスを使って心電図を測定し、それを服薬指導に活かすようなこともしているとのこと。デバイスの上に4本の指を置いてしばらく待つと、心電図と心拍数が表示されます。不整脈とかも検出できるのかな?

30秒ほどで測定完了。

使っているのは「Kardia Mobile Personal EKG」というデバイスでした。


薬局に何を求める?

DURAN’S PHARMACYでは、付加価値として「きめ細やかなサービス」を患者に提供することで、他の薬局との差別化を図っていました。もちろんその分価格は高くなってしまうそうですが、このようなサービスを求めている患者には人気のあるコミュニティファーマシー。

一方、きめ細やかなサービスは必要なくて、できるだけ安く、薬だけもらえればいいやと思っている人は、ドラッグストア内に併設してある薬局を利用していました。


Walgreens

アメリカ全土に展開しているドラッグストアチェーン「Walgreens」。アメリカ2大ドラッグストアのひとつ(もうひとつはCVSファーマシー)で、日本でいうマツキヨのようなポジションです。

こちらは訪問してきたというよりは「ちょっと寄ってみた」という程度なので、情報量としては微妙ですが、一応対比として掲載しておきますね。同じ理由で店内の写真もありません。

なんだかスケール感がわかりませんが、だいたいDURAN’S PHARMACYの3倍くらいの広さがあります。でもアメリカだから取り立てて大きいわけではなく、日本の郊外にあるようなドラッグストアと同じくらいです。


調剤室もあるので処方せん薬にも対応できる

店内のいちばん奥には調剤室がありました。日本でも調剤室を備えたドラッグストアがありますが、それとほとんど同じイメージです。ドラッグストアの一角に調剤薬局があるような感じ。

繰り返しになりますが、アメリカの処方せんは紙ではなく、病院からオンラインで薬局に送られています。なので、患者が薬を取りに来たときには、すでに渡す準備ができているので、あとは説明を聞いて帰るだけ。

それなのに、夕方の仕事帰りの時間帯になると調剤室の前に行列ができるほどの盛況ぶりでした。DURAN’S PHARMACYのようにきめ細かなサービスは必要なくて、安価に薬だけもらいたい人が利用しているらしい。

そんなニーズに応じてか、調剤室の窓にはドライブスルーも併設されていました。確かに、薬局に着いたときにはすでに準備ができているから、車に乗ったまま受け取るのが効率的かもしれません。

きめ細かなコミュニティファーマシーか、ファストフード的なドラッグストアか。話を聞いていると、どっちを使いたいかは結構意見が分かれるようです。いずれにせよ、いろんな選択肢があるのはいいことですね。


サプリメントやOTC薬が充実

アメリカはセルフメディケーション大国

セルフメディケーションとは、ドラッグストアなどで売っている市販薬(OTC薬)やサプリメントなどを使って健康を維持し、できるだけ病院にかからないようにしようという考え方です。日本も医療費が高騰しているので厚生労働省が推進しています。

たとえば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)という種類の胃薬があるのですが、日本では医師の処方せんがないともらえません。でもアメリカでは、PPIである「ネキシウム」という薬がOTC薬として市販されているので、必要なときに自由に買うことができます。

規制は緩くしておくから何かあったら自己責任で、というのがアメリカの文化の根底にあるようです。だから日本も緩くすればいいとは言いませんが、セルフメディケーションを推進するためには皆の考え方を変える必要があるのかもしれません。

また、サプリメントもいろいろな種類がありました。僕は全然詳しくないので「これ日本では売ってないのに!」とはなりませんでしたが、棚一面のネイチャーメイドは圧巻でした。さらに、僕らが訪れた日は1本買ったらもう1本無料セールが行われていて、アメリカ人のサプリメント好きを表しているようでおもしろかったです。


感じたこと

コミュニティファーマシーとドラッグストアの両方を訪れて感じたのは、

  • 管理システムはアメリカが進んでいる
  • 高齢化社会への適応は日本が上
  • ドラッグストアは日本と変わらない

    この3点。

管理システムはアメリカが進んでいる

たとえば、処方せん。

日本は紙媒体で発行されなければならないと決まっています。確かに、前もって薬局にFAXできるような病院もありますが、基本的には薬局の窓口で提出してから薬の準備が始まります。だから待ち時間がかかる。

しかも、調剤済みの処方せんは紙のままで3年間保管しておかなければならない。場所も取るので、薬局にとってはデメリットしかないよね。いつまでこんな時代遅れなシステムでやってるのよ。

さらに日本では、薬局版のカルテみたいなものとして「薬歴」というものに記録しています。これはその薬局だけのクローズドなもの。当然他の薬局から参照することはできません。

一応、病院や薬局との情報共有の手段として、患者には「おくすり手帳」というものを持って行くように勧めていますが、書かれているのは薬に関する情報だけ。どのような病気でその薬が処方されたかは想像するしかありません。

一方、アメリカの処方せんはオンラインなので、前もって準備できるから患者も待たなくていいし、保管にも場所を取らない。この方がいいというか、2018年としてはこっちが普通かな。

さらに、繰り返しになりますが、患者の病気の情報は「ICD10」というコードで共有されているし、薬歴も他の薬局からオンラインで参照できる。

これ、どう考えてもアメリカの方が進んでいると言わざるを得ないです。むしろアメリカが普通で、日本が30年くらい遅れてると言い換えることもできます。医療分野におけるはIT化は急務です。

高齢化社会への適応は日本が上

でも日本も悪いことばかりではなくて、在宅医療をはじめとした高齢化社会への対応は、日本の方が進んでいます。しっかりと患者に寄り添った医療が提供されています(人手不足な一面もありますがここでは割愛)。

日本は国民皆保険制度というバックグラウンドがあるので、国全体で足並みをそろえやすいというのが大きいのかもしれません。

ドラッグストアは日本と変わらない

上にも書きましたが、アメリカのドラッグストアで提供されているサービスは日本とほぼ同じです。ただ、そこで売っているOTC薬に関してはアメリカの方が種類が多いです。

しかし、それが進んでいるとは一概には言えません。薬は常にリスクと隣り合わせなので、作用の強いものを好き勝手に使われたら収拾がつかなくなるからです。だから日本のような厳しめの規制が必要な場面もある。


まとめ

「日本とアメリカの薬学教育や薬剤師業務のちがいを学ぶ」という目的でアルバカーキに行ってきましたが、このような薬局を訪問したことで、日本とアメリカそれぞれの「いい部分」と「よくない部分」が浮き彫りになりました。

だからといって、僕の行動が直ちに変化するということはありませんが、こうやって記事にすることで関係者の皆さんと情報共有できればいいかなーと思っています。

シリーズ「アメリカと薬学」

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