昨日に引き続き、アメリカの薬局特集の2回目です。今回は対照的な「コミュニティファーマシー」と「ドラッグストア」を取り上げます。
付加価値として「きめ細やかなサービス」を提供するコミュニティファーマシーと、割と流れ作業なドラッグストア。アメリカ人も好みが分かれるようです。
さらに、もうひとつの対立軸として、日本とアメリカの薬局のちがいという視点でも見てみたいと思っています。
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前回は、薬局内で薬を製造する「コンパウンド・ファーマシー」を紹介しました。
アメリカの薬局①|薬をつくる「コンパウンド・ファーマシー」 – starnote*
いくら薬局で薬を製造することが認められているとはいえ、すべての薬局でこのようなことを行っているわけではありません。アメリカにも、日本と同じような調剤薬局やドラッグストアが存在します。
今回は、このような〈普通の〉薬局を紹介。
DURAN’S PHARMACY
きめ細かなサービスに定評のあるコミュニティファーマシー「DURAN’S PHARMACY」。日本でいうところの「調剤薬局」です。
患者との対話を重視し、従業員全員が患者の顔と名前を覚えているので、その人に合ったサービスを提供することができるそうです。
たとえば、アメリカの処方せんは病院から薬局へオンラインで送られているので、患者が薬局を訪れる前から薬の準備ができます。患者の顔と名前を覚えていれば、薬局を訪れた直後に薬が出てくるし、健康状態の相談もしやすくなるし、いいことばかりです。
また、このDURAN’S PHARMACYでは、異なる医療機関から処方された薬の日数をそろえ、患者が月に1回だけ薬局を訪れればいいようにしているそうです。
このように、普段から過剰なサービスに慣らされている日本人から見ても、きめ細やかだと感じるサービスが提供されている。だからアメリカ基準だったら超親切な薬局ということになりますね。
コミュニティファーマシーにおける薬剤師
日本の調剤薬局では、通常の調剤業務に加えて、高齢者向けの「在宅医療」や「一包化」に取り組んでいる薬局も多くあります。アメリカでも、このような取り組みが行われているのでしょうか。
日本における「在宅医療」とは、家から出歩くことが困難になった患者(主に高齢者)を対象として、医師・看護師・薬剤師などが患者宅を訪問し、自宅で医療を提供するというものです。結論から言うと、アメリカではこのような制度はメジャーではありません。
しかしDURAN’S PHARMACYの場合は、配達サービスを行っています。ドライバーを雇って患者宅に薬を届けてもらい、服薬指導は薬剤師が電話で行うというようなものです。日本のように薬剤師が直接患者宅を訪問することはありません。
在宅医療に関しては、高齢化の進んでいる日本の方が行き届いたサービスを提供しているなーという印象でした。
また、同じく高齢者向けである「一包化」。同じタイミングで飲む複数の薬をひとまとめして患者に渡すサービスですが、これはアメリカでも提供されています。
ちがうのは入れ物くらいかな。日本は散剤(粉薬)と同じ袋に入れることが多いですが、アメリカの場合は「Dispill」という大きなPTPシートのようなものに入れます。
→ Dispill® Medication Packaging System
また、日本でも患者に渡した薬を「薬歴」という形で管理していますが、アメリカでも同じようなものがあるそうです。
詳しくは聞けませんでしたが「ICD10」というコードで病名を管理し、別の薬局からでも参照できるようになっているとのこと。薬局間の共有を前提としていない日本のクローズドなシステムとは大違いです。
さて、そんなDURAN’S PHARMACYですが、店内はこのような構造になっています。
左から
- レストラン
- OTC薬(かぜ薬など、処方せんのいらない市販薬)・日用品・おみやげなど
- 調剤室
となっています。日本人から見て違和感を覚えるのは、やはり薬局の中にレストランがあるということでしょう。
薬局の中にレストラン!?
昔々、アメリカの薬局はソーダやアイスクリームを売っていました。その形態が徐々に変化していって、今では薬局内にレストランを併設していることも少なくないそうです。だからこの光景はアメリカでは割とメジャー。
特に大きな壁もなくひとつの空間なので、レストランから放たれるいい匂いが調剤室の方まで漂ってきます。調剤室の見た目は日本と大差ないのに、匂いが全然違うもんだから、僕の頭はプチパニックを引き起こしていました。
残念ながらスケジュールの都合上、このレストランで食事はしなかったけれど、絶えずお客さんがやってくる大人気のレストランでした。
アメリカの薬剤師は予防接種を打てる
なんといっても、アメリカの薬剤師の大きな特徴は「予防接種を打っていい」ということでしょう。僕らが訪問したときもインフルエンザの予防接種「FLU SHOT」が行われていました。ちなみに価格は35ドル。日本とあまり変わらないかな。
さらに、薬剤師だけでなくAPPE中の学生(ニューメキシコ大学薬学部では4年次の学生)も打てるということでした。どういう決まりになっているかはわかりませんが、薬剤師と同じ権限があるほど深い実習をやっているということでしょう。
アメリカの薬学教育制度についてはこちらの記事をご覧ください。
日本とアメリカの薬学教育のちがいを学んできた。 – starnote*
心電図モニタリング
また、ポータブルなデバイスを使って心電図を測定し、それを服薬指導に活かすようなこともしているとのこと。デバイスの上に4本の指を置いてしばらく待つと、心電図と心拍数が表示されます。不整脈とかも検出できるのかな?
30秒ほどで測定完了。
使っているのは「Kardia Mobile Personal EKG」というデバイスでした。
薬局に何を求める?
DURAN’S PHARMACYでは、付加価値として「きめ細やかなサービス」を患者に提供することで、他の薬局との差別化を図っていました。もちろんその分価格は高くなってしまうそうですが、このようなサービスを求めている患者には人気のあるコミュニティファーマシー。
一方、きめ細やかなサービスは必要なくて、できるだけ安く、薬だけもらえればいいやと思っている人は、ドラッグストア内に併設してある薬局を利用していました。
Walgreens
アメリカ全土に展開しているドラッグストアチェーン「Walgreens」。アメリカ2大ドラッグストアのひとつ(もうひとつはCVSファーマシー)で、日本でいうマツキヨのようなポジションです。
こちらは訪問してきたというよりは「ちょっと寄ってみた」という程度なので、情報量としては微妙ですが、一応対比として掲載しておきますね。同じ理由で店内の写真もありません。
なんだかスケール感がわかりませんが、だいたいDURAN’S PHARMACYの3倍くらいの広さがあります。でもアメリカだから取り立てて大きいわけではなく、日本の郊外にあるようなドラッグストアと同じくらいです。
調剤室もあるので処方せん薬にも対応できる
店内のいちばん奥には調剤室がありました。日本でも調剤室を備えたドラッグストアがありますが、それとほとんど同じイメージです。ドラッグストアの一角に調剤薬局があるような感じ。
繰り返しになりますが、アメリカの処方せんは紙ではなく、病院からオンラインで薬局に送られています。なので、患者が薬を取りに来たときには、すでに渡す準備ができているので、あとは説明を聞いて帰るだけ。
それなのに、夕方の仕事帰りの時間帯になると調剤室の前に行列ができるほどの盛況ぶりでした。DURAN’S PHARMACYのようにきめ細かなサービスは必要なくて、安価に薬だけもらいたい人が利用しているらしい。
そんなニーズに応じてか、調剤室の窓にはドライブスルーも併設されていました。確かに、薬局に着いたときにはすでに準備ができているから、車に乗ったまま受け取るのが効率的かもしれません。
きめ細かなコミュニティファーマシーか、ファストフード的なドラッグストアか。話を聞いていると、どっちを使いたいかは結構意見が分かれるようです。いずれにせよ、いろんな選択肢があるのはいいことですね。
サプリメントやOTC薬が充実
アメリカはセルフメディケーション大国。
セルフメディケーションとは、ドラッグストアなどで売っている市販薬(OTC薬)やサプリメントなどを使って健康を維持し、できるだけ病院にかからないようにしようという考え方です。日本も医療費が高騰しているので厚生労働省が推進しています。
たとえば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)という種類の胃薬があるのですが、日本では医師の処方せんがないともらえません。でもアメリカでは、PPIである「ネキシウム」という薬がOTC薬として市販されているので、必要なときに自由に買うことができます。
規制は緩くしておくから何かあったら自己責任で、というのがアメリカの文化の根底にあるようです。だから日本も緩くすればいいとは言いませんが、セルフメディケーションを推進するためには皆の考え方を変える必要があるのかもしれません。
また、サプリメントもいろいろな種類がありました。僕は全然詳しくないので「これ日本では売ってないのに!」とはなりませんでしたが、棚一面のネイチャーメイドは圧巻でした。さらに、僕らが訪れた日は1本買ったらもう1本無料セールが行われていて、アメリカ人のサプリメント好きを表しているようでおもしろかったです。
感じたこと
コミュニティファーマシーとドラッグストアの両方を訪れて感じたのは、
- 管理システムはアメリカが進んでいる
- 高齢化社会への適応は日本が上
- ドラッグストアは日本と変わらない
この3点。
管理システムはアメリカが進んでいる
たとえば、処方せん。
日本は紙媒体で発行されなければならないと決まっています。確かに、前もって薬局にFAXできるような病院もありますが、基本的には薬局の窓口で提出してから薬の準備が始まります。だから待ち時間がかかる。
しかも、調剤済みの処方せんは紙のままで3年間保管しておかなければならない。場所も取るので、薬局にとってはデメリットしかないよね。いつまでこんな時代遅れなシステムでやってるのよ。
さらに日本では、薬局版のカルテみたいなものとして「薬歴」というものに記録しています。これはその薬局だけのクローズドなもの。当然他の薬局から参照することはできません。
一応、病院や薬局との情報共有の手段として、患者には「おくすり手帳」というものを持って行くように勧めていますが、書かれているのは薬に関する情報だけ。どのような病気でその薬が処方されたかは想像するしかありません。
一方、アメリカの処方せんはオンラインなので、前もって準備できるから患者も待たなくていいし、保管にも場所を取らない。この方がいいというか、2018年としてはこっちが普通かな。
さらに、繰り返しになりますが、患者の病気の情報は「ICD10」というコードで共有されているし、薬歴も他の薬局からオンラインで参照できる。
これ、どう考えてもアメリカの方が進んでいると言わざるを得ないです。むしろアメリカが普通で、日本が30年くらい遅れてると言い換えることもできます。医療分野におけるはIT化は急務です。
高齢化社会への適応は日本が上
でも日本も悪いことばかりではなくて、在宅医療をはじめとした高齢化社会への対応は、日本の方が進んでいます。しっかりと患者に寄り添った医療が提供されています(人手不足な一面もありますがここでは割愛)。
日本は国民皆保険制度というバックグラウンドがあるので、国全体で足並みをそろえやすいというのが大きいのかもしれません。
ドラッグストアは日本と変わらない
上にも書きましたが、アメリカのドラッグストアで提供されているサービスは日本とほぼ同じです。ただ、そこで売っているOTC薬に関してはアメリカの方が種類が多いです。
しかし、それが進んでいるとは一概には言えません。薬は常にリスクと隣り合わせなので、作用の強いものを好き勝手に使われたら収拾がつかなくなるからです。だから日本のような厳しめの規制が必要な場面もある。
まとめ
「日本とアメリカの薬学教育や薬剤師業務のちがいを学ぶ」という目的でアルバカーキに行ってきましたが、このような薬局を訪問したことで、日本とアメリカそれぞれの「いい部分」と「よくない部分」が浮き彫りになりました。
だからといって、僕の行動が直ちに変化するということはありませんが、こうやって記事にすることで関係者の皆さんと情報共有できればいいかなーと思っています。
シリーズ「アメリカと薬学」
- アメリカに行ってきます。
- 日本とアメリカの薬学教育のちがいを学んできた。
- アメリカの薬局①|薬をつくる「コンパウンド・ファーマシー」
- アメリカの薬局②|コミュニティファーマシーとドラッグストア【この記事】