アメリカの薬局①|薬をつくる「コンパウンド・ファーマシー」

日本と同じところと、ちがうところを、探しに行く。

日本で「薬局」というと、病院に行った帰りに処方せんを持って寄る薬局と、マツキヨのようなドラッグストア、この2種類があります。それはアメリカでも同じです。

この記事で取り上げるのは前者。日本で言うところの「調剤薬局」です。医師からの処方せんに基づいて調剤し、患者に薬を渡す、というのは日本と同じ。

ただ、アメリカは日本より薬剤師に認められている業務の幅が広かった。


11月上旬にアメリカに行ってきました。その目的は「日本とアメリカの薬剤師のちがいを体感する」こと。前回はアメリカにおける薬学教育について記事を出しました。

日本とアメリカの薬学教育のちがいを学んできた。 – starnote*
学んできた者の使命は「発信すること」だと思うのです。 先日1週間ほどアメリカに行ってきたのは何回か書いているとおりですが、学んできたことや感じたことを僕の中だけ留めておいても何もいいことがありません。 当ブログの読者には薬学関係者がたくさんいると思うので、有益そうな知見を余すことなく発信できればいいなーと思っています。 1回目は「日本とアメリカの薬学教育のちがい」について。日本との差が大きく、取り入れてもいいんじゃないかと思える部分が数多くありました。 The University of New Mexico (UNM) 僕らがお邪魔してきたのは、アメリカ南部のニューメキシコ州アルバカーキにある「ニューメキシコ大学(The University of New Mexico: UNM)」。州立大学です。 僕の大学出身の先生がニューメキシコ大学で講師をしてらっしゃるというコネがあり、今回の訪問が実現しました。本当にお世話になりました。 日本とアメリカの教育制度 日本の教育制度は中央(文部科学省)が一括で決めていることが多いですが、アメリカは州の力が強い国。教育制度という面にもその影響が大きく現れていて、カリキュラムは州ごとに異なるそうです。 一例を以下に示します。 日本の場合 日本では全国共通の教育制度となっています。薬学部の場合、薬剤師免許を取得できるコース(薬学科)は6年制課程でなければなりません。その内容も「薬学教育モデルコアカリキュラム」というものに基づいています。 高校卒業後(浪人生の期間がある人もいるにせよ)、そのまま大学の薬学部薬学科に入学して6年間のカリキュラムをこなすと、薬剤師国家試験の受験資格を得られます。 大学では、基礎的な内容から徐々に高度な内容を積み重ねていくようなカリキュラムになっています。初年次には薬学とは遠い内容である教養教育も含まれます。 また、卒業前(学士取得前)でも、「卒業見込み」であれば国家試験を受験できるのが日本の制度です。試験は毎年2月末に1回だけ実施されます。次回の第104回薬剤師国家試験は2019年2月23〜24日。 アメリカ(UNM)の場合 アメリカは州ごとの裁量が大きいので教育制度も異なることがあります。ここでの内容はニューメキシコ州での話。

このプログラムの一環で、2か所の特徴的な地域薬局と、アメリカ全域に展開するドラッグストアを訪問してきました。まずはそのひとつについて詳しく紹介します。


MENUAL COMPOUNDING PHARMACY

僕らが滞在していたニューメキシコ州・アルバカーキにある「MENUAL COMPOUNDING PHARMACY」

この薬局では、原薬の粉末からオリジナルの薬を作っています。日本では見かけない——というか日本では許可されていない——タイプの薬局です。


薬局で薬をつくる、とは?

日本でも、散剤(さんざい:粉薬のこと)や軟膏剤を混ぜ合わせることはできます。以下のように、医師からの処方せんに基づいて、混ぜ合わせて患者に渡すようなことです。青いフタの軟膏入れは見たことがあると思います。

アメリカはさらに進んでいて——進んでいるという表現がふさわしいはわかりませんが——原薬を基剤に練り込んで、薬局でゲル剤を作ることができるのです。

日本では製薬メーカーの工場でしかできないような工程を薬局で行うことができる。つまり、患者に合わせたオーダーメイドの薬を作ることができます。

日本の薬局でできるのは「散剤どうしの混合」「軟膏やクリーム剤の混合」「内用液剤の混合」というように、同じ種類の薬を混ぜ合わせることだけです。原薬の粉末から別の種類の薬を作り出すことはできない。


たとえば軟膏剤・ゲル剤にフォーカスしてみましょう。

確かに、患者に合わせた薬を作るという点では、いくつかの軟膏を混ぜ合わせることのできる日本も同じかもしれません。しかし大きく違う点として、日本は商品化されている軟膏しか使えないということが挙げられます。

アメリカは、軟膏として市販化されていないものであっても、原薬の粉末をベースのゲル剤に練り込むことで「オリジナルの製剤」を作り出すことができる。しかも、薬局で製造することを前提とした処方せんを医師が発行している、というのがポイント。

日本でも「薬局製剤」というものがありますが、これはあくまでもOTC薬(ドラッグストアで売っているような市販薬)と同じ扱いです。医師が処方せんで指示することはありません。


実際の処方を見てみよう

僕らが訪問したときに作っていたのは、

CMPD BIEST 2.5 / PROG 30

という処方。女性ホルモンを練り込んだゲル剤です。

使用するホルモンの種類やその用量は医師からの処方せんで規定されています。

原薬の粉末を「PYTOBASE CREAM」という基剤に練りこんでゲル剤を製造します。製造時には保存剤としてアルコールを加えるそうです。

この薬局では、2006年から薬を作っているとのこと。また、製造法については年に1回シンポジウムが開催されており、そのブースに出展することでオリジナルの薬を医師に対して宣伝するというような活動もしています。


法律的には、すべての薬を薬局でつくれる

医薬品の製造について、日本では「GMP:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」という省令が定められています。医薬品が安全に、かつ一定の品質で作られる基準に合格しないと、医薬品製造業として認められません。

患者に高品質な薬を届けるという意味では、日本の「厳密に規格化された品質」の方がいいのは決まっています。しかし、すべての薬において厳密な品質管理が必要とは限らない。

たとえば、今回訪問したときに作っていた「ゲル剤」。薬局で原薬の粉末から製造することで、規格品では満たすことのできないニーズに応えることができる。

だから「需要が少なくて工場で製造できないけど、必要としている患者もいる薬」においては、工場で製造する高品質は得られなくても、薬局で作った方が幸せになれる人もいる。少ないけど確かなニーズに応えるために薬局で製造するのは、全然アリだと思うのです。

もちろん適当に作っているわけではなく、使用した原薬のロットナンバーを控えておくことで、問題が発生したときに追跡できるようにしているそうです。この番号は書類にして保管し、監査のときに提出することで品質を担保しているらしい。

話によると、アメリカの法律(もしくはニューメキシコ州の法律?)では、薬局ですべての薬を原薬から製造できるということでした。この記事ではゲル剤を取り上げましたが、空のカプセル剤も準備されていて、外用薬だけでなく内服薬も製造できるそうです。

空のカプセル。医師からの処方に基づいて原薬を充填する。
空のカプセル。医師からの処方に基づいて原薬を充填する。

最後に

繰り返しますが、薬局で薬をつくることが「進んでいる」とは言いません。

製造業として許可を得た工場でしか生産できない日本の方が「品質の高い薬を提供している」と言うこともできます。だから一概にアメリカが進んでるとは言い難い。

しかし、患者ひとりひとりに応じた医療を提供するという観点に絞ると、アメリカの方が患者に寄り添っていると言わざるを得ません。需要が少なくて工場では製造できなくても、「薬局でつくる」という選択肢があれば、救われる患者さんは日本にもいるはずです。

そんなことを思った薬局訪問でした。

シリーズ「アメリカと薬学」

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