夕暮れ時。一日のうちで最もロマンチックな空気で支配される時間帯だ。
その赤い光によって一日の終わりが思い起こされ、僕らは切ないような、もの悲しいような、何とも言えない気持ちになる。
今日はどんな日だっただろう? 何年経っても思い出せるような、強烈な記憶を脳みそに刻み込むことができただろうか?
明日はどんな日になるだろう? 誰かの心を揺さぶることができるような、誇り高い仕事ができるだろうか?
過去と未来に思いを馳せ、今の自分を見つめ直す。そんな場所だ。
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古くから軍港として栄えた佐世保。現在でも、海沿いには自衛隊や米軍の基地が並び、商店街を歩くとさまざまな人種に出くわす。
中心部から山を越え、20分ほど車を走らすと、その場所はある。
「展海峰(てんかいほう)」と名付けられたこの場所は、海を望むことができる景色が自慢だ。海の上には無数の島が斑点のように浮かぶ。九十九島とよばれるこれらの島は、自然の力によって作り出された絶景というわけだ。また、春は桜や菜の花が、秋はコスモスが一面に咲き、その眺望に華を添える。
街の中心から離れているにもかかわらず、展望台には多くの人が訪れる。小学生の子どもを連れた家族、じゃれ合いながら距離を縮めるカップル、定年後の人生を楽しむ夫婦、大きな望遠レンズを携えた登山家、母国から遠く離れた日本を満喫する外国人。
その展望台は訪問客を静かに迎える。空に向かって伸びる階段の上には、思わずため息が出てしまうほどの絶景が待っている。
僕は展望台の下に三脚を構え、海から吹き付ける強風に耐えながら、日が落ちるのをひたすら待った。「その時」が近づくにつれて客は増えていき、ウグイスの鳴き声とともに、一帯にはカメラのシャッター音が鳴り響く。
星が出てくると、今日の撮影は終わりだ。僕はカメラを三脚から外し、誰もいなくなった展望台を背に、薄暗い丘を下った。
<完>