夕暮れを見ると、心が浄化される。
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→ BATTABI 06|久しぶりに晴れた休日、房総半島の南端まで足を延ばす
——かえりみち。
房総半島の最南端まで辿り着き、さながら大きな仕事を終えたような気分で車を走らせる。数日前からこちらに向かっていた巨大な掃除機のような雲の塊は、いつの間にか消滅したようだ。待ちに待った「晴れの休日」には大きな邪魔も入ることなく、静かに終えようとしていた。
僕は目的地で過ごす時間よりも、目的地に向かっている途中の方が好きだ。手が届きそうで届かないような、もう少し進んだら確実に掴める気がするような。確かに自分の向いている方角にあるはずのものを、その方向にあるとただ信じて、ひたすらに進む時間。
だから、目的地に辿り着いたあとの帰り道でさえも、何かワクワクするものを目指して向かうことにしている。今日は、アクアライン、海ほたる。
いくつかの渋滞に巻き込まれた結果、そこに辿り着いたのは、太陽が水平線に横たわる雲の中に吸い込まれようとしていた、その少し前。別に狙ったわけでないにせよ、この時間帯に、この場所で、この天気で、この光景に遭遇するのは、おそらく滅多に無いかもしれない。
だから気がついたときには、行きがけに寄ったから帰りは通り過ぎようとしていた「海ほたる」に、車を止めていた。エレベーターで5階に上がり、あたかもこの場所で写真を撮るのが自分の使命だと本能に刷り込まれているかのように、何の迷いもなく目の前の光景にカメラを向ける。ただただ無心にシャッターを切る。
台風は消滅したとはいえ、その影響は大きく残っていて、海の中に浮かぶこの人工島には強風が叩きつけていた。僕は飛ばされそうになりながらも、カメラがぶれないようにしっかりと足を踏ん張り、自分の体を深く地面にのめり込ませた。
この時間の主役は西の空だ。誰もがこの空を眺め、その姿を写真に収め、明日また昇ってきてくれることを願いながら、静かに消えゆく太陽に別れを告げる。
そんな中、南の空を見上げると、羽田空港を飛び立った飛行機が上昇を続け、遠くの彼方へ飛び去っていく。東の海を見渡すと、工業地帯を背景に、さまざまな大きさの、さまざまな色で彩られた船が同じ方向を向いて進んでいく。
注目されないような場所でも確かな活動が行われていて、そこでは自分と同じように、顔も名前も知らない人々が暮らし、働き、必死に生きている。こうして、日本という枠組みの中で支え合い、この国は維持されているんだ。
人はひとりでは生きられないと言うけれど、この場所で、この景色を見たことで、それを実感するとは思ってもみなかった。自分も、顔も名前も知らない誰かに貢献したいと思えたし、いつも混んでる東京も、満員電車も、たまには許してもいいような気がしてきた。
なんとなく、自分が少し優しくなれたように感じた、ある日の夕暮れ——。