まずは研究していた7年半の概要について。
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7年半研究してました
なぜ「7年半」なのかというところから。
僕は2009年に長崎大学薬学部薬学科(6年制)に入学し、卒業後は博士課程に進学して、2019年に大学院を修了しました。(同時にPhDが与えられました)
研究室に配属されるタイミングは大学によってまちまちです。長崎大学薬学部の場合は〈学部3年生の後期〉から配属され、自分の研究テーマが与えられます。
つまり、学部3.5年間+大学院博士課程4年間の合計7.5年にわたって「研究」というものに向き合ってきました。(臨床実習をやってた時期もあるので実質7年くらいかもしれないけど)
その中で、途中で教授が替わったりとか、研究室が移転したりとか、あまり普通じゃないことも経験しつつ、研究を行ってきました。
キーワード
- 6年制薬学部 —— 薬剤師の養成を目的としていて、「薬学部薬学科」と呼ばれることが多い。国立大学の場合は、1〜4年次に知識を詰め込み、5年次に臨床実習をして、6年次は卒業研究をみっちりやるようなカリキュラム構成。
- 4年制博士課程 —— 通常の学部は、学士4年→修士2年→博士3年の「4+2+3制」。しかし医歯薬学部は学士6年→博士4年の「6+4制」という課程になっている。
学部生時代の研究:分析化学
僕の7年半の研究キャリアはちょうど半分に分けることができます。前半の学部生時代と、後半の博士課程時代。
まず、前半3.5年間の学部生時代は「分析化学」という分野の研究をしていました。具体的には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という装置を使った物質の定量法の開発とその応用について。
検診で採血してきた血漿試料(血液を分画したもの)に前処理をかけて、HPLCで測定するということを延々とやってました。
その検診のお手伝いに行ったときに書いたのが、このブログの最初の記事です。
五島列島・奈留島に行ってきた〈その1〉 – starnote*
今になって考えてみると、このジョブは何か新しいものを創り出すというよりは、ただのルーチンワークだったように思います。研究と呼べるかは微妙なラインですね。
キーワード
- 高速液体クロマトグラフィー(HPLC) —— 試料中の目的物質を定量する方法のひとつ。一定速度で流れている液体中に試料を打ち込み、流路の途中に設けたカラムで試料中の化合物を分離する。カラムに保持された時間をもとに化合物の同定を行い、定量する。
- ヒト血漿試料 —— 採血した血液(全血)に抗凝固剤を加えて遠心分離すると、固体と液体に分離する。その液体部分のことを「血漿(けっしょう)」と呼ぶ(固体部分は「血球」)。
博士課程の研究:DDS
博士課程では「薬物送達システム(Drug Delivery System: DDS)」という分野の研究を4年間。脳に対する薬物送達法の評価系を構築してました。
脳には血液脳関門(Blood Brain Barrier: BBB)という強力なバリアがあります。異物を脳内に入れないという生体機構なのですが、そのせいで脳への薬物送達が遮られて脳疾患の治療ができないというのが、現在の医薬品業界における課題です。
なので、そのBBBを越えることのできる薬物送達法が求められていて、そのひとつとして〈マイクロバブルと超音波照射を組み合わせた方法〉が提唱されています。フランスではヒトでの臨床研究も行われました(Carpentier A et al. Sci Transl Med, 2016;8:343re2 PubMed)。
送り込むこと自体も重要な技術ですが、そのあとに〈評価する方法〉が不足しているというのも、また問題点。だから僕は「脳マイクロダイアリシス法」という方法を使う評価系を、マウスとラットで構築しました。
こうすることで、送り込んだ薬物そのものを直接回収して測定にかけることができるし、経時的な薬物動態(Pharmacokinetics: PK)を追うことができます。
キーワード
- 薬物送達システム(DDS) —— 体内の送り込みたい部分に薬を送り込む技術の総称。いちばん有名なのは「胃で溶けずに腸で効く」かな。
- マイクロバブル —— その名のとおり、マイクロメートル(μm)サイズの気泡のこと。国内では超音波診断用の造影剤として「ソナゾイド」が承認されている。
- 脳マイクロダイアリシス法 —— 動物の脳内に微小な透析膜を入れ込んで灌流し、透析膜を通して脳内物質を直接回収することのできる実験手法。もともとは、ドパミンやセロトニンなどの脳内生理活性物質を回収するために考案された。
なぜ途中で分野が変わったの?
僕は学部と博士課程で研究分野が変わっています。
その理由はただ単に研究室の教授が替わったからです。分析化学を専門にされていた教授が定年で退官されて、新しく来られた教授の専門がDDSだった、というだけ。
しかし、DDSの研究でも分析の知識はよく使うので、決して無駄になったわけではありません。むしろ相乗効果でプラスになっていたような気がします。
次回は博士課程の研究各論に入ります
今回は7年半の研究をざっくりとまとめました。本当にざっくりなので、省略しすぎて表現が適切でない部分もありました。次回からは細かいところも含めて各論に入っていきます。
学部生時代の研究はとりあえず後回しにして、博士課程での内容から順次記事にしていきたいと思っています。