飛行機が好きだ。
何百もの人と、たくさんの荷物を積んで、大きな鉄の塊が高度1万メートルへと飛び立つ。滑走路で助走をつけて、のっそりと機首を持ち上げ、上へ上へ。
遠くに移動するからには、皆それぞれ目的がある。楽しい旅行、大事な出張、期待が膨らむ留学、別れを伴う転勤——。
「千葉に引っ越しちゃうんですよー」
長崎空港のスターバックスで、前に並んでた人が店員さんに何気なく言っていた一言。そうか、飛び立ったあと、二度とこの場所に戻ることのない人もいるのか。
何百もの乗客には、何百通りものドラマがある。その重みを一挙に背負い、高度1万メートルに飛び立つ。
だから、飛行機は美しいのかもしれない。
太陽が傾き、その光が機体に反射する。ただでさえ大きな機体が、存在感を確かなものにしている。それを見届けたあと、機内に乗り込む。今日のフライトは12時間の長旅だ。
さて、どうやって過ごそうか。
目の前に備え付けられたディスプレイで映画を見る、持ってきたiPadで文章を綴る、空港で買った本を読む。人に迷惑をかけなければ、どのように過ごすのも自由だ。
だけど、僕は外の景色をずっと眺めていたい。
夜明け。ほんの数時間前に沈むのを見届けたばかりの太陽が、再び顔を出す。
飛行機から眺めるこの光景が好きだ。真っ暗闇に注ぐ偉大な光によって、雲は燃やされ、空は青く輝き、機体に影がもたらされる。
そう、地球は美しいのだ。
飛行機の窓から覗き見る地球の姿。それは、気候によって、異なる表情を見せる。
大陸を横断するように飛んでいるとよくわかる。海岸沿いは緑が豊かで、内陸に進むにしたがって茶色の大地が姿を現し、ゴツゴツとした岩山が空に向かって生えている。
こんな過酷な環境でも、人々は大地を開拓し、穀物を植え、自然の恵みを収穫してきた。その痕を空の上から眺める。
地球は美しい。
飛行機の窓から覗き見る地球の姿。それは、国によっても異なる表情をしている。
建物の色、畑の形、道路の広さ。どれをとっても、その場所に住む人々が、自分たちに合わせて作り上げてきた結果だ。空から見下ろす街並みは、その国の文化を如実に反映している。
だから僕は空から景色を見るのが好きだ。飛んでいる間ずっと見ていても飽きない。美しい音楽を聴きながら、地上を眺め、そこで行われている活動に思いを馳せる。
地球は美しい。
また1日が終わろうとしている。
誘導路のアスファルトも、並んで離陸を待っている飛行機も、一斉に輝き出す。暗闇に墜ちてしまう前の最後の足掻きだ。
でも、僕らはちっぽけな存在だから、地球のペースに刃向かうことはできない。どう足掻いても暗闇はやってくる。それを受け入れることしかできないんだ。
地球は偉大だ。そして美しい。
まだ見たことのない光景を探して、遠くに飛び立ちたい。そして、その場所の空気を肌で感じ、匂いを吸い込み、景色を目に焼き付け、そこで暮らす人々とふれあいたい。
だって、地球は美しいのだから。